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「万引き家族」~肩寄せ生きる疑似家族の、はかない絆の行方は(ネタバレあり)

わずかな年金で暮らす老婆。そのボロい一軒家で、家族や社会からこぼれた者たちが、親子・きょうだいのように暮らしていたが・・・。
社会の底辺で生きる、血のつながらない者たちの疑似家族の行方は。(2018年)
おすすめ度★★★

あらすじ

治(リリー・フランキー)と息子の祥太(城桧吏)は万引きを終えた帰り道で、寒さに震えるじゅり(佐々木みゆ)を見掛け家に連れて帰る。見ず知らずの子供と帰ってきた夫に困惑する信代(安藤サクラ)は、傷だらけの彼女を見て世話をすることにする。信代の妹の亜紀(松岡茉優)を含めた一家は、初枝(樹木希林)の年金を頼りに生活していたが……。

シネマトゥデイより

第71回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門で、最高賞となるパルムドール受賞で話題となった作品。

公開前の先行上映で観てきました。

「他人同士が家族のように暮らす」というストーリーなのは、予告映像や受賞に関する作品紹介で見聞きした方も多いと思います。

私もそこまでは知っていましたので、血のつながらない同士であっても精神的な絆でつながっているといった、いわゆる感動系の展開だと思っていました。でも、そんな優等生的ストーリーのくくりには収まらない作品です。

以下、エンディングまでを含むレビューとなります。いわゆるネタバレとなる記述もありますので、未見の方はご注意ください。







まず、軸となる「疑似家族」を演じる出演者の演技が、全員文句なしに素晴らしい。

わずかな年金で生きている老婆の樹木希林、飄々としたダメ男のリリー・フランキー、パート先でネコババ常習者の安藤サクラ、家出して風俗で働く松岡茉優、拾われて無戸籍のため小学校に行ってない城桧吏、虐待されていた女の子の佐々木みゆ。

子役の自然さは、『誰も知らない』『そして父になる』などの是枝裕和監督の得意とするところなので、この作品も例外ではありません。

子供らしさのまんまというか、「演技臭くない演技」を引き出すのが巧いんですね。他の監督から見たら、どうやって撮るのか知りたいと思うんじゃないでしょうか。

樹木希林の老婆ぶりは言うまでもなく、リリー・フランキーの中年ダメ男ぶりも上手いし、松岡茉優の孤独感も良かった。

でも、安藤サクラのすごさは際立っていたと思う。

「百円の恋」でもそうでしたが、いわゆる美人女優に来る役回りではありません。でも、ちょっとやさぐれて品のない女のリアリティと存在感は、他に太刀打ちできる女優が浮かばないですね。

警察での取り調べの時の、泣かないように泣く場面(意味不明でしょうが、観て納得してください)は、感情を押し殺そうとする姿に逆に心情が溢れ出ていて、彼女にしか出来ないと思わせる素晴らしいシーンでした。(これだけで作品評価の7割を占めたんじゃないかと思うほどの、観ていて落涙してしまうシーンです)

何というか、演技に自信がある女優が見れば嫉妬を覚え、自信がない人が見たら絶望するレベルじゃないでしょうか。

しかも顔立ちは美人じゃないのに、妙にキレイに見える時があったり、じっとりしたエロさも醸し出すことができるという、変幻自在さが魅力の女優さんです。

でも、こんなに演技がベタ褒めなのになぜおすすめ度が3なのかというと、是枝監督らしい「結果やその後を明示しないモヤっと感」があることがひとつ。

あとは全体的に淡々としているので、いわゆる娯楽作品好きの方には何のスカッと感もなく、「え、これで終わり?」的な不満が残ると思います。

そして、肩寄せあって生きる疑似家族たちですが、純粋に相手を思い助け合っているわけではない部分とか、他の登場人物にも人間の嫌な部分が見えて、ちょっと陰鬱な気持ちになるシーンもあります。(パート同士で解雇者を決める時のやりとりとか)

きれい事じゃない描写によってリアリティーを持たせるのはわかるのですが。

単身の老婆・初枝(樹木希林)は、行き場のない皆を受け入れる優しさを見せる一方、元夫を奪った女(元夫も後妻もすでに死亡)の家へ「(元夫の)月命日のついでに寄っただけ」と言っては毎月訪れ、後妻との間にできた息子(緒形直人)の罪悪感を利用してお金をせしめる姑息さ。

「おばあちゃんは私の気持ちがなんでもわかる」と言って樹木希林を慕う亜紀(松岡茉優)は、家族との関係がうまくいかず家出して風俗バイトをしているのですが、実はその後妻の息子(緒形直人)の長女なのです。

風俗店での源氏名を実の妹の名前にしてるのは、両親が可愛がる妹へのあてつけでしょうか。

この亜紀は、初枝(樹木希林)が死んだ時、一人だけ泣いていました。でも、のちに初枝が自分の実家へお金をせびりに行っていたと知り、ショックを受けるのです。

優しい理解者だと思っていた人が持っていた、醜悪な一面。

この疑似家族の大人たちは、互いをいたわりながら寄り添い生きてるように見えても、それぞれ利用し合っている一面があるのです。

初枝が自宅で死んだ時、悲しむ亜紀に「こういうのは順番なんだから」とあっさりと言い放ち、一片の悲しみも見せない信代(安藤サクラ)。

葬式費用の問題や、この家に隠れ住んでいることがバレるのを避けるため、初枝を床下に埋めて、いなかったことにする治(リリー・フランキー)。

血はつながらなくても、気持ちでつながっているという美談などでは済まない現実があらわになってきます。

死亡届を出していないので、初枝の口座に振り込まれる年金。それをあてにして引き出す信代(安藤サクラ)。

治(リリー・フランキー)は息子の祥太(城桧吏)に万引きの理由について都合のいい解釈を教え、正当化します。

治(リリー・フランキー)は、いわゆる極悪人ではありません。繰り返す犯罪も、万引きなどのケチな窃盗です。

祥太も実の子ではなくても一緒に暮らして育ててますし、虐待で寒さに震えていたじゅり(佐々木みゆ)を見かねて家へ連れて帰る優しさもあります。

でも、一方ではやはり考え無しで無責任なのです。無戸籍で祥太は小学校へも行けませんし、教えられるのは万引きだけ。

異常な生活環境を強いているというのも、ある意味虐待と言えなくもありません。

祥太は、自分が父から教わったように、じゅり(疑似の妹)にも万引きを教えます。駄菓子屋でじゅりに万引きをさせて店を出ようとした時、店主(柄本明)に呼び止められ、固まる祥太。

とがめられると思いきや、店主は祥太に「これ持っていけ」とお菓子を2つ渡します。そして、戸惑う祥太に言うのです。

「妹にはさせるな」

「何を・・・?」

「これだよ」と、祥太が万引きを実行する前にやっているおまじないのような手のしぐさをしてみせる店主。

店主は、これまでの万引きに気づいていたのです。祥太のルーティンのしぐさまで。

それをきっかけに、万引きに疑問を持ち始める祥太。そしてその疑問は、万引きを正当化し、さらに車上荒らしまで始めた父・治に密かに向けられていくのです。

そして祥太が万引きに失敗した上にケガをして病院に運ばれたとき、警察から逃れるため皆で夜逃げを企てる治。

結局夜逃げの前に捕まり、じゅりの誘拐と初枝の死体遺棄で罪に問われることになる治と信代。

崩壊する疑似家族。

信代自身、おそらく虐待されてきた身の上です。そのため、じゅりをどうしても両親の元へ戻したくなかった。

彼女にとっては決して「誘拐」じゃない。「捨てられてたから拾って大事にしていた子」なのです。

初枝の死には淡々としていた信代でしたが、じゅりへの愛情は我が子同然でした。

信代は全部自分が一人でやったと言い張り、すべての罪をかぶります。

取り調べの時、子供が産めない(らしい)信代に対し、池脇千鶴演じる警官から「産まなきゃママになれないでしょ」と、他人の子を育てていたことを責められる信代。

ここで、観てる側はその発言の残酷さに「血じゃないんだよ、愛情なんだよ!」と感情が揺さぶられます。

祥太は児童養護施設へ入り、じゅりは元の両親の元へ。

拘置所の面会室で、祥太に「本当の身元を探すための情報」を告げる信代。

自分が本当の親にはなれなかったと自覚し、祥太にとって本当に幸せな環境で育ててやれなかったことへ向き合った、彼女なりの答えなのでしょう。

でも、観ている人にはわかる。法や常識では許されない共同生活だったけれど、信代が子供たちへ注いでいたのは無償の愛でした。

児童養護施設から、父だった治が住むアパートへ会いに来る祥太。父子の関係を解消する会話をする二人。

それでも帰りのバスに乗った祥太を思わず追いかける治。窓から振り返る祥太。

夫からDVを受ける母親からまた虐待されても、以前とは少し違う意志の強さが見えるじゅり。

それぞれ別の居場所へ散った子供たち、そして亜紀の想いはどんなものなのか。明確なものは示されていない。

そして、根本的に抱える問題は誰も解決されていない。それほど簡単な問題ではないし、社会が変わったわけでもないから。

数年後に信代が出所した時、「疑似家族だった5人」が再び一緒にいることを求める気持ちはあるのか。

きっと、観た人それぞれに想う「その後」があるのだと思う。でも、想像に委ねる系が好きじゃない人にとっては、やはりスッキリしない終わり方だろう。

作品評価としてならもっと高くつけたいけれど、おすすめ度としては一応3で。

でも、『誰もしらない』『そして父になる』での「家族というつながりにおいて、明確な正解はない」ストーリーを受け入れられる方には、間違いなく5つのおすすめです。

いましめ教訓:
 大人が考えるより、供は
 大人をよく見ている

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