60年代、米国フォード社はフェーラーリ(イタリア)の買収に動くが、交渉は決裂。しかも、エンツォ・フェラーリから侮辱的な言葉まで投げかけられる。激怒したフォード会長はル・マン24時間耐久レースの絶対王者であるフェラーリを打ち負かすことを決意。
フォード社からオファーを受けた元レーサーのシェルビー(マット・デイモン)と、凄腕のドライバー、ケン・マイルズ(クリスチャン・ベイル)の友情とプライドに胸が熱くなる。(2019年)
おすすめ度★★★★
あらすじ
カーレース界でフェラーリが圧倒的な力を持っていた1966年、エンジニアのキャロル・シェルビー(マット・デイモン)はフォード・モーター社からル・マンでの勝利を命じられる。敵を圧倒する新車開発に励む彼は、型破りなイギリス人レーサー、ケン・マイルズ(クリスチャン・ベイル)に目をつける。時間も資金も限られた中、二人はフェラーリに勝利するため力を合わせて試練を乗り越えていく。
シネマトゥデイより
「フォードVSフェラーリ」って、またしょーもない邦題つけちゃったのかと思ったら、原題もだった「FORD V FERRARI」だった・・・。まあ、それは置いとくとして。
これね、車好きなら絶対、劇場公開している間に観に行くべき。
「車は雨と風がしのげて走ればいい」というレベルで車に興味のない私ですら、うなるエンジンと排気音、レースのスピード感に引き込まれたし、スポーツカーやレース好きの人にはたまらないんじゃないかな。
この作品は実話ベースなのですが、フォードもフェラーリも社名として知ってる程度の私は、66年ル・マンでのフォードGT40の歴史的勝利の件もまったく知りませんでした。
当初、フェラーリを買収しようと話を進めていたフォード社のマーケット戦略担当アイアコッカは、最終局面でエンツォ・フェラーリ(フェラーリ創業者)から契約を拒否されるのですが、この時のエンツォの罵倒が、まあなんとも・・・。
「汚い工場で醜い車でも作ってろ!」
いやあ、ここまで言っちゃうとか・・・。しかも、フォード会長である2世のことも、創業者と比較してコテンパンにこき下ろす。
そりゃあここまでメンツを潰されて奮起しないようでは、自動車業界の巨人である企業の長としての立場がないというもの。(フェラーリがちょっと悪者にされすぎてる感もありますが)
1960年から直近の65年まで、フェラーリはル・マンを6連覇中という絶対王者。コケにされたフォードがフェラーリに対抗するには、ル・マンで打ち負かすしかない。
打倒フェラーリ!!に燃えてレーシングカーを作ることにした時に白羽の矢を立てられたのが、シェルビー(マット・デイモン)。
アメリカ人レーサーで初めてル・マンでの優勝経験を持ちながらも、心臓病のためレースを退いていたシェルビー。でも心の底ではレースへの思いが断ち切れていない。
フォード社からの無謀なオファーを受けたシェルビーは、凄腕のドライバーで今は自動車修理工場を営むケン・マイルズ(クリスチャン・ベイル)に協力を仰ぐ。
マイルズは車とドライビングのスペシャリストなのだけど、経営する工場は差し押さえられ、生活もままならない状態。それでも迷っていた彼を、妻モリーが後押しして決意を固める。
レースまで90日しかない中で、シェルビーとマイルズはレーシングカーの改良を重ねていくわけですが、この二人は車とレースへの思いが同じなので、情熱の共有を深めていく。
ところが、フォードのレーシング部門責任者となった副社長ビーブは、マシンやレースそのものへの思い入れなどない上、粗野に見えるマイルズのことが気に入らない。会社のイメージや自分の手柄優先で、マイルズをプロジェクトから下ろそうとする。
つまりシェルビーとマイルズは、フェラーリだけでなく、社内の重役からの妨害とも戦わなければならないわけです。
車は重役室で作ってんじゃない!!
現場で作ってんだ!!
と、観ていて青島化する私。
マイルズを追放しようと、会長を伴って工場を訪れたビーブ。シェルビーは、マイルズが必要だと会長に訴えるため、思い切った作戦に出ます。
レーシングカーに求められるスペックとスピードがどれほど異次元のものか、ようやく理解した会長が涙を流して言う言葉に、「ああ、2世には2世の思いがあるのだな・・・」と感じて、ちょっとグっときましたね。
でも、フォードは膨大な資金をつぎ込んで新たなレーシングカーを開発したわけで、そういう意味では金にモノを言わせた感は否めないんですが。
しかし、24時間走り続ける耐久性とスピードを競うル・マンって、どんだけ過酷なのか・・・。それに挑む二人は、スピードという魔物に憑りつかれてるようにも見える。このレースは、重役連中のようなビジネス感覚でできるものじゃない。
冒険家の場合とかもそうなんだけど、命を失う覚悟が必要な場所へ、何かに駆り立てられるように自ら望んで挑む心情は、レーサーも同様なのかもしれない。
レースシーンのスピード感やエンジン音、地面に近いアングルで爆走する迫力は、観ていて思わず力が入ります。私はつい息まで止めてしまい、苦しくなって何度か「プハアァァァーー!!」と息継ぎする始末。
なんていうか、もはや車というより地上を走るジェット機のよう。タイヤホイールなんて、熱でもうオレンジ色になってるしーー!!
ル・マンでトップの位置となったマイルズ。このままいけば優勝・・・。でも、会社の宣伝を優先する副社長ビーブは、とんでもないことを命令する。
そして、その結果は・・・
思わず「クソが!!」と叫びたくなるもの。
二人は、フェラーリには勝ったのに、フォードに負けた。
結局、二人がレース勝利にかける思いと、会社がマーケティングとして必要な勝利は、まったくの別物。
やるせないけど、やり遂げたことのすごさは二人が互いに理解しているのだから・・・と納得するしかない。
後日、また車の改良を続けている二人。試験走行するマイルズが猛スピードの中で感じたのは、以前、息子に語って聞かせた、極限のスピードの中で訪れるという「無」の感覚。
その「無」に包まれる、マイルズ・・・。
実話だから仕方ないけど、ハッピーエンドじゃないのが悲しい。
それでも、極限の中、男二人が互いに圧倒的信頼を置き共闘する姿はやっぱり胸アツだし、純粋にうらやましいとさえ思う。マット・デイモンとクリスチャン・ベイルの二人が、とにかくいい。
前半、それぞれの人物の現状を説明するためのシーンが若干長いのと、車両改良の内容が、あんまり描かれてないのがちょっと残念。専門的な内容を入れても理解できないだろうと省略したのかもしれないけど、メカ好きな人なら改良を重ねる内容をもっと詳しく見たかったんじゃないかな。
テレビや、ましてやPCやスマホ画面のオンデマンドでは、格段に味が落ちてしまう作品。特にロングランではないと思うので、そのうちに・・なんて思ってると公開が終わっちゃいます。後悔しないよう、早めの劇場鑑賞での体感がおすすめ。
熱量見直しの教訓:
尋常じゃない情熱を注ぐ生き方を知るのは
省エネに傾きがちなメンタルへのガソリンになるよ