気まぐれに林業研修生となった、都会育ちのちゃらんぽらんな青年。すぐに研修に嫌気がさして逃げ出そうとするが・・・。
林業や山を守る意味と大切さを、ユーモアを交えて改めて気付かせてくれる作品。(2014年)
おすすめ度★★★★
あらすじ
大学受験に失敗し高校卒業後の進路も決まっていない勇気(染谷将太)は、軽い気持ちで1年間の林業研修プログラムに参加することに。向かった先は、携帯電話が圏外になるほどの山奥のド田舎。粗野な先輩ヨキ(伊藤英明)のしごき、虫やヘビの出現、過酷な林業の現場に耐え切れず、逃げようとする勇気だったが……。
シネマトゥデイ (外部リンク)より
「ウォーターボーイズ」や「スウィングガールズ」の、矢口史靖監督作品。
いやー、実はあんまり期待しないで観たのですが、いい意味で予想を裏切られました。
「林業」という、エンタメの題材としてはあまりスポットが当たらないテーマで、ここまで面白くできるとは・・・。
原作は三浦しをんさん。
「舟を編む」もそうでしたが、あまり注目を浴びない職業に実は存在する「深み」への焦点の当て方が素晴らしいです。
主人公は、大学受験に失敗して投げやりになっていた青年・平野勇気(染谷将太)。
受験に合格した友達らとカラオケに行き、ヤケになって騒ぐも、落ち込んで帰る道すがらたまたま目についた、林業研修プログラムのパンフレット。
そのパンフのかわいい女性(長澤まさみ)目当てで気まぐれに応募し、電車を乗り継ぎたどり着いたのは、携帯の電波も届かないような山奥の村。
そこにある研修センターでは研修生を歓迎する一方、村人の中には「どうせすぐこの村を出ていくヨソ者だろ」と、冷たい態度といらだちを見せる人も。
木こりの飯田ヨキ(伊藤英明)もその一人で、粗野な言動と短気さで勇気(染谷将太)にも厳しく当たってくる。
山の生活は一見のどかに見えても、ヒルやマムシが普通にいるわ作業現場は過酷だわで、ゆるふわなスローライフなどではない。
研修センターでの1ヶ月の講習を終える頃には、激減している研修生。
勇気も一度は逃げ帰ろうとするも結局踏みとどまり、飯田(伊藤英明)の家に住み込みで、実地の1年を過ごすことに。
この飯田(伊藤英明)のキャラがすごくいい。粗暴で短気、ガタイが良くて女好き。
敵意をむき出しにするも、一度打ち解けるとめっぽう人情家という、愛すべき山男を完璧に演じてます。
片鼻を手で押さえてフンッ!!と吹き出して手鼻をかむ様子なんて、イケメンが台無しの品の無さ。
この飯田の身体能力がまたすごい。
親方がクレーン付きトラックを走らせながら、田んぼ向こうの遠くにいる彼に「ヨキ!!」と呼んで手招きすると、猛スピードで駆け出す飯田。
そして田んぼを超え、走るトラックに追い付いてそのまま荷台に飛び乗るという、海猿にも負けないワイルドっぷり!
伊藤英明の他には光石研、マキタスポーツ、柄本明らの脇役有名どころが出演しているけれど、みんなでトラックの荷台で揺られながら木こりの歌を歌ったり木に登って枝打ちしたり、集会所で寄り合いする姿なんて、本当に村人にしか見えない。
林業組合の近藤芳正も、もうホントにそれっぽくて可笑しくなってしまう。
長澤まさみも、洒落っ気も化粧っ気もない、気が強い山村の女になりきってます。
全編で描かれるのはコメディだけど、山を敬い、畏敬の念をもって生きる人々が描かれる。
山に入る時、手を合わせる飯田(伊藤英明)らの姿を不思議そうに見ていた勇気(染谷将太)。
でも山で木々に触れて過ごすうち、ある時ふと目についた川辺の石仏に、持っていたおにぎりの半分を分けて、自然と供える勇気。
いつしか山に対する畏敬の念が、意識することなく芽生えていたのですね。(これがのちに、『笠地蔵』みたいな不思議な恩返しを受けることになる)
日本はアニミズム(自然界のあらゆるもの、無生物にも霊魂が宿っているという考え・信仰)の国だけど、宗教などと意識すらしないくらい、自然を敬う思考が根付いているのが、私はとても好きだ。
そして、林業というのは先人が遠い昔に植えた木の恵みを受け、自らも未来の子孫のために木を植え続けるという、世代を超えて受け継ぎ、渡していくものであることがよくわかる。
自分が生きている間は見ることのない、100年後に成長を遂げる木を植え、手入れを続ける人たち。
質のいい大木は高値が付くけれど、目先の金欲しさに木を次々と切り倒してしまえば、山は死ぬ。
林業とは、未来に向けて気が遠くなるような生産行為を続ける仕事だ。
また、単なる収入源としての職業の意味を超え、山の神の掟(おきて)に添い、山そのものを守り続けるという古来からの役割を担っていることが自然に理解できる。
小ネタに思わず笑いながらも、林業の持つ悠久の営みと、山を守る人たちに感謝の気持ちが湧いて来る。
クライマックスは、数十年に一度の村の大祭。謎に包まれていた大祭の全容は見てのお楽しみだけど、これまた日本の祭りや信仰に多く見られる、子孫繁栄と豊穣の願いを象徴する「男女のシンボル」が描かれていて面白い。
のほほんとした雰囲気は変わらないものの、山での1年で勇気(染谷将太)は大きく変化し、成長する。
その成長ドラマと林業の理解、自然信仰。
コメディの展開で笑いながらそれらを見ているうちに、押し付けがましくなくじんわりとあったかいものが染み込んでくるような良作。
エンドロールのあとにちょっとした「その後の勇気」が描かれるので、それもお見逃しなく。
エンディング曲の『HAPPIEST FOOL』も最高に明るくハッピーで、この作品にぴったり。
『誰よりも幸せな愚か者』だなんて・・・最高か!!
忘れがち教訓 あなたの身の回りに普通にあるものは 誰かの普通じゃない努力で出来ている
林業SUGEEEEEEーーー!!!を実感できる「WOOD JOB!(ウッジョブ)~神去なあなあ日常~ 」へGO!
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三浦しをんさんの原作本。
こっちもレビューの高さがスゴイ。