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「ヘルター・スケルター」~美は弱肉強食、そして消耗品

蜷川実花監督作。沢尻エリカが、全身整形による偽りの美貌を持つタレントりりこを、体を張って演じてます。(2012年)
おすすめ度★★

 

あらすじ

トップモデルとして芸能界の頂点に君臨し、人々の羨望(せんぼう)と嫉妬(しっと)を一身に集めるりりこ(沢尻エリカ)。だが、その人並み外れた美ぼうとスタイルは全身整形によってもたらされたものだった。そんな秘密を抱えながら弱肉強食を地でいくショウビズの世界をパワフルに渡り歩く彼女だったが、芸能界だけでなく、世間をひっくり返すような事件を引き起こし……。

シネマトゥデイより

蜷川実花監督作品。蜷川実花は写真家なので、写真の構図感覚での「画(え)」として撮りたかったんだろうなと思われるシーンがたくさん見受けられます。

逆に、画として撮ろうとしていない、ストーリー進行上のシーンはテンポが遅かったりしつこかったりと、バランスが悪いです。もっと短くまとめればもっと良くなったはず。

りりこの部屋の、極彩色のごちゃついたインテリアとか、一見して蜷川実花とわかります。好き嫌いが分かれる色彩感覚ですね。

沢尻エリカが演じるりりこは、全身整形で手に入れた美貌を武器に、芸能界で活躍の場を広げていきます。全身でなくても、実際に整形をしている芸能人は少なくないでしょう。

でも、どんなに頑張っても人は年を取るし、若さに永遠はなく人気は常に移り変わるもの。

大衆が求める美が集まる芸能界は弱肉強食の世界であり、また、若い一時期の美しか売りが無い人は、消耗品のように消えていきます。

自然美人のこずえ(水原希子)に対して、りりこが憎しみに近い嫉妬と焦燥感を覚えるのはわかる気がしますね。

こずえは生まれながらにキレイなので、りりこのように必死で手に入れた美とポジションに執着する人の気持ちなど、わかるはずがない。その無頓着さが、りりこはなおさら悔しい。

どうしてそうまでして「美」を求めるのか。理由はいくつかありますが、大きなところではやはり「美しい者を人は好み、憧れを持つ」から。

その「美しい人」になれば、憧れていた自分が憧れられる側になれる。美人と認められることによって与えられる価値と、もたらされるメリットは莫大です。

芸能人などではなく、たとえ一般人レベルのコミュニティの中でも、「キレイなほうが得」であることを、女子は物心つく頃から痛いほど知っているのです。

見向きもされなかった自分が、美を手に入れて賞賛を浴びる。

でもりりこは歌も演技も大したレベルではなく、肝心の美貌すらニセ物。さらにその美貌まで失われていく恐怖。

本当は何も持っていなくて、自分のからっぽさを知っている。

自分に夢中な大衆の歓声さえ、虚構の自分に向けられたものであって、本当の自分を愛してくれる人などいない。

恋人だと思っていた男にすらあっさり捨てられ、心を病んでゆく。

りりこは幸せとはいえず痛々しい人物ですが、でも同情は感じにくい。マネージャーの羽田ちゃん(寺島しのぶ)への仕打ちは度を越してますし、羽田ちゃんの、りりこへの献身ぶりも異常。

同棲中の若い恋人を目の前で寝取られてなお、「りりこさんは私がいないと何もできないんです」って、まるでDV男と離れられない女みたい。なんだか共依存のように思えました。

それにしても、りりこが通う美容クリニックの犯罪を暴こうとする刑事(大森南朋)のセリフが、全部ポエム調なのは何とかならなかったんでしょうか。

紙の上ならともかく、現実にあんなことを口に出して言う人いないっての。大森南朋は演技が巧みな役者さんなのに、あんなこっぱずかしいセリフ言わせて、無駄遣いもはなはだしい。

沢尻エリカは裸をさらしてハードめのラブシーンも体当たりで演じてます。心が病んでゆく過程で泣き叫ぶ演技も上手かった。

ですが映画としては全体的にやはりテンポが悪くてダレるし、芸能人や流行に関し移り気な大衆の描き方も薄っぺらくて、作品の出来としてもおすすめ度としても★★です。

美に対して強烈な渇望を抱いたことのある人は、りりこへの共感度が高くなるかもしれません。

でも、りりこを演じた沢尻エリカ自身、ハーフ美人として生まれたことで、美は権力であることを実践して生きている人です。

でも彼女に限らず、その権力を持つことと、本当に幸せになれるかどうかは別物であると、年を重ねるほどわかってくるんですが。

あ、余談ですが「PPAP-ペンパイナッポーアッポーペン」で世界的に有名になったピコ太郎こと小坂大魔王が、ちょこっと出演してますよ。

女の教訓:
 若さだけに頼ってると
 通用しなくなる日が必ず来るよ

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