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「チョコレートドーナツ」~差別と偏見を、正義にすりかえる人たち

 

ショーパブで働くゲイのルディ。アパートの隣室に住む薬物中毒の女が見捨てた子供・マルコの面倒をみるうち、深い愛情で結ばれていく。恋人のポールの協力で監護権を得て、3人で親子のように幸せな日々を過ごしていたが・・・。1970年代のアメリカの実話を基に描かれる偏見と差別、そしてその先に起きた悲劇とは。(2012年)
おすすめ度★★★★★

あらすじ

1979年カリフォルニア、歌手を目指しているショーダンサーのルディ(アラン・カミング)と弁護士のポール(ギャレット・ディラハント)はゲイカップル。 母親に見捨てられたダウン症の少年マルコ(アイザック・レイヴァ)と出会った二人は彼を保護し、一緒に暮らすうちに家族のような愛情が芽生えていく。 しかし、ルディとポールがゲイカップルだということで法律と世間の偏見に阻まれ、マルコと引き離されてしまう。

シネマトゥデイより

ショーパブで女装をし、ステージに立つルディは、店を訪れた客・ポールとひと目で惹かれ合い、カップルに。でも、ゲイバーで働くルディと違い、ポールは検察官という職業のせいもあり、ゲイということを隠してきたし、体面や世間体を気にしています。

ルディのアパートの隣室に住むシングルマザーの女は麻薬中毒。よって、ダウン症の息子・マルコのことも育児放棄状態。そしてついに薬物で逮捕され、母のいなくなったマルコは施設へ入れられてしまいます。施設を抜け出してさまよっていたところに通りかかったルディは、そのままマルコを自宅に泊めて、一緒に過ごすように。

このルディ(アラン・カミング)は、家賃を払うのもやっとという経済状態。でもマルコを引き取り、一緒に暮らし始めます。収監されているマルコの母親に、マルコの監護権の承諾をもらいに行ったときも、面倒をみるための金銭は一切要求しない。そして、1ミリの恩着せがましさもない。

ルディは考え方も愛情もまっすぐで、体面を取りつくろったりしないんです。お金はなくても卑屈にもならないし、マルコに対しても同情でなく愛情で接する。ユーモアを忘れず、真の優しさと強さを持った人。こんな人が身近にいたら、惚れちゃうなあ。でも彼はゲイなので、女の私は相手にされないだろうけど。

マルコは知的障害を持ち、ダウン症による身体虚弱で、重病にかかる可能性が高い子供です。しかも実の母親からも見捨てられた子。でも、ルディのマルコに対する想いは、哀れみでもなければ偽善でもない。マルコのことがひたすら愛おしいだけ。ポールと共に暮す3人は、本当の親子以上に深い愛情で結ばれていきます。

ハロウィンの仮装を楽しんだり、クリスマスや誕生パーティで笑顔を見せるマルコ。浜辺で遊ぶ3人を写したホームビデオ映像。

記録フィルムのようにザラついた映像に映る彼らは、心から楽しそうで、幸せそう。マルコへの愛情があふれている様子に、もう泣けてきてたまらない。

マルコのために子供部屋も用意し、障害児向けの特別クラスがある学校に通わせ、家でも勉強をみてやるルディとポール。単純に可愛がるだけでなくきちんと教育もし、病院で健康チェックのケアもする。普通の親以上に立派な「両親」なんです。なのにゲイカップルということが知られ、それを理由としてマルコと引き離されてしまいます。

裁判では、ゲイに関する部分ばかり執拗に尋問される二人。マルコの幸せより、ゲイというマイノリティを糾弾することに躍起になる人たち。アメリカの70年代はこんなにも露骨な差別がまかり通っていたことに驚くと同時に、怒りがわくのを抑えられません。

ルディとポール以外に、マルコをあんなに愛し、大切にできる人なんていないのに。そして何より、マルコ自身が彼らと暮らすことを望んでいるのに。

差別と偏見が、法を暴力に変えて彼らの幸せを踏み潰す。

ゲイということを犯罪者のように追求され、必死の訴えもむなしくマルコの監護権を失うルディとポール。相手は、彼らの監護権を取り上げるために、マルコの母親を異例に早く釈放させたのです。母親のもとへ戻されたマルコでしたが、またすぐに薬物に手を出した母親は、男とラリって楽しむためにマルコが邪魔になり、彼にアパートの廊下へ出ているようにいいつけます。 

夜の町を一人歩くマルコ。

その後、ポールがタイプライターで打った手紙が、彼らの訴えを退けた裁判官や検事へ届きます。そこには、家を探して3日間さまよい歩いたマルコに起きた悲劇の、小さな新聞記事について書かれていました。

マルコを失ったルディが、歌手になる夢を叶えて自身の声で歌うエンディングに胸を突かれます。この、魂の叫びのような歌のシーンが素晴らしい。

ルディを演じるアラン・カミングのこの歌はもちろん、全編を通して感じるのは、アランの笑顔に見える、演技を超えた優しさと温かさ。

マルコが好きだったお話のようなハッピーエンドではなく、切なくてやるせないストーリーです。でも、アランのあの慈愛に満ちた笑顔に会いたくて、これから先も何度も観ると思います。

一度は観てほしい名作です。

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