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「リリーのすべて」~性転換を望む夫に、妻の決断は。

デンマーク人の画家夫婦、アイナーとゲルダ。ふとしたきっかけで、夫であるアイナーは自分自身の中の女に目覚めてゆく。
世界で初めて性別適合手術を受けた実在の人物の、夫婦愛の物語。(2015年)
おすすめ度★★★ 

あらすじ

1926年デンマーク。風景画家のアイナー・ヴェイナー(エディ・レッドメイン)は、同じく画家の妻ゲルダ(アリシア・ヴィキャンデル)に女性モデルの代役を依頼される。その際に、自身の内面にある女性の存在を感じ取る。それ以来リリーという女性として生活していく比率が増していくアイナーは、心と体の不一致に悩むことに。当初はそんな夫の様子に困惑するゲルダだったが、次第に理解を深め……。

シネマトゥデイより

 

 

1920年代という、身体と心の性別の不一致に関する研究はもちろん、世間の認識や理解が薄かった時代。ふとしたことから自分の内にある女性に目覚めてしまった風景画家、アイナー(エディ・レッドメイン)。

これ、妻はキッツイです。夫から「女になりたい」って言われたらどうしたらいいのか・・・。ましてや性別区分の多様性への世間の理解なんて無いに等しかった1920年代という時代性を考えると、現代より何倍も大変だったと思う。

私なら・・・「結婚前に言わんかい!」ってとりあえずツッコミ入れそう。

それにしても、エディ・レッドメインの演技は素晴らしいです。

自分の中にある本当の性(女)に気づいた時の戸惑いと動揺。

初めて女装をしてパーティーへ出かけた時の不安と喜び。

自分自身の本心と妻の願いとの間で、それでもやはり女性になりたいと揺れる感情。そして女性化を抑えられなくなり、内なる欲求に逆らえなくなる葛藤。

全編を通し、表情の繊細な表現が秀逸です。(「ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅」での彼より20倍くらい演技力が活かされてますよ)

エディ自身、女性っぽい優しい顔立ちの上に身体も細くて華奢なので、女性化していく様子も違和感がありません。

というか、内にリリー(アイナーが女性になったときの名前)を確立したあとは、男性の格好をしていても、表情も仕草も「女」にしか見えないほど。そして「オネエ」などと茶化す感情は一切わいてこない、圧倒的な女性感。

妻ゲルダはもちろん最初は理解できずに、夫に対し「もうリリーにはならないで」と頼むのですが、もはや一度目覚めたものは戻りようがないのです。

性別の自覚というのは趣味嗜好とは違うので、努力でどうこうとか、矯正したりできるようなものではないのです。だからそれはもう、仕方ないんですよね。

他にはヘンリクという同性愛の男性が出て来て、アイナーはリリーとして会いに行くようになるのですが、この人との関係が話をちょっと複雑にしています。

ヘンリクはゲイなので男が好きなのですが、リリーは内面が女の上、性転換手術を受けて外見も女っぽくなっています。そんなリリーに対しヘンリクがどういう感情を持って接しているのか、よくわからないのです。

双方とも恋愛対象の条件とはズレがあるはずなので、性的異端とされた者同士のシンパシーなのか、そのあたりの疑問は回収されません。

アイナーの幼ななじみのハンスという男の位置づけもちょっと微妙。

幼い頃、アイナーにキスしたことがあるハンス。

ゲルダからアイナーのことを相談され、彼らの力になりつつもゲルダといちゃつきかけたりと、「このエピソードいる?」とツッコミたくなる余計なシーンがストーリーの本筋を邪魔します。

そして何より余計なのが、このハンス、プーチン大統領そっくりだということ。もうプーチンにしか見えず気が散る上、「なにゲルダにキスしてんだプーチン!」と、内心のツッコミもプーチン化してきます。

ゲルダは葛藤を抱えながらも結局、アイナーがリリーになれるよう、支えるようになります。

性別適合手術を選んだアイナーを支えるということは、夫としての彼を失うことです。でも、決意の固いアイナーから離れるのではなく、彼の意思に寄り添うことを選んだゲルダ。

私だったら・・・「結婚前に言わんかい!」とまずはツッコむと先に書きましたが、悩んでも結局ゲルダと同じ選択をする気がします。

気付いたのが遅かったのなら、もう仕方ないしね。夫といっても、もう家族としての意識が強いので、男(夫)でなくなっても、身内には変わりない感覚だと思います。

ただ、性転換して女になった夫が、パートナーとして男性を求めるとなれば難しいかなあ。自分のためというより彼のために離婚することはあり得るかもしれません。

作品中には描かれていませんが、実際のアイナー(リリー)は、恋に落ちた男性のために完全な女性の身体を手に入れようとして、危険な手術を何度も繰り返し、その拒絶反応で亡くなっています。

そんなリリーを支援し続け、そしてリリーの死後はその肖像画を生涯描き続けたというゲルダ。彼女の心境はどんなものだったのか、それは彼女自身にしかわかりません。

オープニングとエンディングに、風景画家だったアイナーが描き続けた、故郷ヴァイレの情景が出てきます。

それは雄大で美しいのに、なぜかとても哀しく見えるのでした。

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