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「黄金のアデーレ 名画の帰還」~あの名画にまつわる歴史の真実を知る

誰でも一度は目にしたことがあるであろう、クリムトの『アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像 I』。絵のモデルであるアデーレの姪が、この叔母の絵はナチスによって奪われたものであると、返還を求めてオーストリア政府を相手に争う実話。老婦人と若手弁護士の奮闘のゆくえは。(2015年)
おすすめ度★★★★

あらすじ

アメリカ在住の82歳のマリア・アルトマン(ヘレン・ミレン)は、グスタフ・クリムトが描いた伯母の肖像画で第2次世界大戦中ナチスに奪われた名画が、オーストリアにあることを知る。彼女は新米弁護士ランディ(ライアン・レイノルズ)の助けを借り、オーストリア政府に絵画の返還を求めて訴訟を起こす。法廷闘争の一方、マリアは自身の半生を振り返り……。
シネマトゥデイより

この絵の背景に悲劇的な歴史があったことを、この作品で初めて知りました。

絵のモデルであるアデーレ・ブロッホ=バウアーとその一族はユダヤ人で、第二次世界大戦でナチスの迫害に遭っていたのです。

アデーレから可愛がられていた姪のマリア・アルトマン。

マリアは20代のとき、ギリギリのところでナチスの追っ手から逃げ、アメリカへ渡ります。

アメリカで長い時が過ぎ、老婦人となったマリア(ヘレン・ミレン)は、奪われた絵画がオーストリアの美術館にあることを知り、返還を求める訴訟を起こします。

この絵は、オーストリアにとって絶対に手放したくない国宝レベルの美術品です(その後の売買で156億円もの巨額な値がついています)。

当然ながらオーストリアは返還要求に応じる気など無く、法廷闘争は長引くこととなります。

高額な絵画の返還闘争の話などと聞くと、その金銭的価値がモチベーションとなったかのようなイメージが先に来がち。

ですが、ストーリーが進むうちにそんな小市民的な動機による行動ではないことが見えてきます。

かつて家族とともに、ウィーンで幸せに暮らしていたマリア。やがてナチスによる街の占拠とともに始まったユダヤ人迫害。

いよいよマリアの家にもナチス兵が現れ、財産を没収された上、監視付きの軟禁生活が始まります。

監視兵の隙を見て夫とともに逃亡するマリアでしたが、両親を国においたまま助けられなかったことが、今でも深い心の傷となっています。

返還訴訟のために当時の出来事を振り返ることはマリアにとって非常につらく、そして返還の要請を却下され続けることに耐えられなくなってきます。

つまりこれは単なる絵の所有権をめぐる争いではなく、むしろ彼女にとっては悲しい過去に向き合う覚悟の象徴であり、そして当時踏みにじられた尊厳の、ささやかな回復とも言えるものなのです。

現在のシーンとマリアの回想が織りなすように展開され、次第にユダヤ人迫害が強まる街の重苦しさや、間一髪で国を脱出する緊迫感など、現在と過去の時間軸それぞれが進行してゆく構成は見ごたえがあります。

マリアを支え、そして時にぶつかりながら共に闘う新米弁護士ランディ(ライアン・レイノルズ)は、最初は絵の価格に関わる弁護士報酬しか頭にありません。

しかしマリアとともにウイーンを訪れ、マリアの深い心の傷と悲惨な歴史の跡に触れたとき、自らの考えを恥じます。そして自分のルーツもオーストリア人であることで、ともに祖国の悲惨な歴史に向き合う決意をするのです。

凛とした老婦人であるマリアと、駆け出しで実績もない弁護士ライアンは、まるでおばあちゃんと孫のよう。次第に信頼を深めていく二人が微笑ましい。

そして何と言っても、マリアを演じるヘレン・ミレンの美しさ、そしてセンスと気品あるおしゃれな着こなしが素晴らしい。あー私も年取ったらこんなおばあちゃんになりたい!

ただし訴訟については実際長い期間がかかったせいか、「6ヶ月後」とか「4ヶ月後」とかのテロップだけであっさり時間をショートカット。それが何度かある描き方なので、時間経過の感覚が軽いのがちょっと残念。

実話ベースなので勝手にエピソードを創作するわけにもいかないでしょうが、法廷のシーンは思ったより短く、観る人によっては盛り上がりに欠ける印象になるかも。

なのでおすすめ度としては4ですが、奮闘が報われるエンディングは胸がすっとするし、後味もさわやか。

ぜひ1度観ていただきたい作品です。

世界共通教訓:
 女の怒りをナメると
 待ってるのは倍返し

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