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「SING」~歌うことの喜びと共感性。でもそれに頼りすぎ

歌はみんな良いのにストーリーが陳腐で、余計なシーンも多くて残念。でも、楽曲の盛り上がりの勢いで満足して見終わる人が多そう。ちょっと辛口レビューです。(2016年)
おすすめ度★★

あらすじ

劇場を運営するコアラのバスター・ムーンは、以前は活気のあった劇場に輝きを取り戻すべく、世界最高の歌唱コンテストをプロデュースしようと考える。感傷的に歌うハツカネズミや、内気なゾウ、25匹も子供がいるブタ、パンクロッカーのヤマアラシらが会場に集結し……。

シネマトゥデイより

うーん、何だろコレ。期待しすぎたのかもしれませんが、ちょっと期待はずれでした。「歌っていいよね、音楽って素晴らしいよね」というテーマはわかりやすいし、異論はないのですが。その共感性とか正当性のようなものに頼りすぎでは。

街並みとか動物の質感とかリアルだし、映像はキレイです。吹替版で観ましたが、声や歌も悪くない。ただ、MISIAの内気なゾウの役は、歌うとき以外の声があまりにもか細い。どっかから空気もれてるんですか?ぐらいの頼りなさで、いくら内気なキャラでもちょっとイラついてしまいました。MISIAの歌声はパワフルなので、もう少し普通に喋ったって歌う時とのギャップは十分に伝わるのに。

なんというか、登場人物が動物なだけで他の状況は人間と同じなのだから、リアリティがほしい部分はリアリティを持たせてほしかった。それなら違和感が無いのに、「映像上のリアリティ」と、「シチュエーション上のリアリティの無さ」が強引に混在している感じ。同じ動物キャラの擬人化アニメでも、「ズートピア」はそういう違和感の気持ち悪さが無い。そこが大きな違いです。

例えば、オーディションに集まった膨大な数の応募者。何人かが歌う様子が出てきますが、みんな上手い。そんな中で選ばれたのがわずか5人(というか動物)というのも、そして選ばれた理由もよくわからない。

大体、潰れかけた劇場立て直し目的で素人参加者を募るのだから、出場者の家族や友人が大勢応援に来てくれなきゃ意味がないでしょう。なのに選んだのはたった5人。しかもコンテスト当日に向けてさんざんレッスンしないとステージに立てないレベルの人(というか動物)。なんで選んだの?と聞きたくなります。

結局、ストーリー展開上、歌で人生を変えたいキャラが必要なのと、数が多いとその人物の背景が描けないから。でも、一方でやたら盛り込まれてる無駄なドタバタ劇(ギャングに追われるネズミとかブタ母さんの作った家事マシンのエラー騒動とか、窃盗ゴリラの脱獄とか)。面白いとは思えないレベルのドタバタ劇にあんなに時間をかけるなら、出場者増やしたり、その人物の背景をもっと描けたのでは?

そして予告でも出てきた、コアラ支配人が自分の身体をスポンジ代わりにして洗車するシーン。絵ヅラ的には面白いですが、まさか無一文になって初心に帰る気持ちで、仕事としてやってたとは・・・。

前にも言いましたが、登場人物が動物キャラなだけで、生活ぶりも街並みも完全に人間と同じなんですよ?何で突然自分の毛並に洗剤つけて身体で車を洗うの?しかも手伝う友人のヒツジ(大金持ち)まで、服脱いで自分の羊毛で車を拭き上げるという・・・。リアリティのなさに白けた気分に襲われます。だって、もしスタンド行って洗車頼んだ時、スタッフが裸になって胸毛に洗剤付けて車をこすり始めたら引くでしょ?何度も言いますが、この作品の世界観、つまり生活や街並はファンタジーじゃないんですから。

このアンバランス・・・この作品の本当のターゲットはどこなんでしょう?突き詰めて脚本を練り上げたとは思えない。

窃盗団として捕まったゴリラは、面会に来た息子が「窃盗はしたくない、本当は歌手になりたい」というのを聞いて「勘当だ!」と激怒。ところがテレビでコンテストに出て歌う息子を観て突然「俺の息子だ!」と自慢。あげくに脱獄してコンテストに駆けつけ、息子に「誇りに思う」とか言い出す。はあぁぁあ~!?

子供向けなら、「動物キャラ」「言動などの矛盾」「大人にはつまらないドタバタ劇」もアリかもしれない。でも、曲のラインナップや、声・歌の起用者を見ると、大人向け。どっちかに絞るか、もしどっちもターゲットにするならばズートピアのようにちゃんとした二重構造に仕上げてほしい。(社会的な主張を盛り込むとかの意味ではなく、大人・子供のどちらが観てもあざとさや矛盾を感じないような作りという意味で)

そしてコンテストの歌の盛り上がりがクライマックスとなるわけですが、そのカタルシスで何だかすべてが「良かったね」にされてる感じ。「言の葉の庭」の感想に通じるものがあります。

声優をつとめた内村光良をはじめ、MISIA、長澤まさみ、大橋卓弥、トレエン斎藤司など、歌も上手くて悪くなかっただけに、余計なドタバタが残念。もっとシンプルに、歌や音楽の素晴らしさを伝えるようなストーリー・演出にしてほしかったです。

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