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「月に囚われた男」~会社の消耗品のあなたへ(ネタバレあり)

 

エネルギー資源の採掘作業のため、月で3年間一人で働く男・サム。あと2週間で任務が終わることを励みにしていたが・・・。自分は本当に自分で思っている人間なのか。アイデンテティが崩れる恐怖と、非倫理的方法で採算と儲けを追求する企業への風刺が効いたSF。デヴィッド・ボウイの息子ダンカン・ジョーンズの初監督作品。(2009年)
おすすめ度★★★★★

あらすじ

サム(サム・ロックウェル)は地球で必要なエネルギー源を採掘するため、3年間の契約で月にたった一人で滞在する仕事に就く。地球との直接通信は許されず、話し相手は1台の人工知能コンピュータ(ケヴィン・スペイシー)だけの環境だったが、任務終了まで2週間を残すある日、サムは自分と同じ顔をした人間に遭遇する。

シネマトゥデイより

月面に単身赴任、しかもたった一人で働くサム。彼をサポートするのは、ガーティーという名前の人工知能コンピュータ。このガーティーは人間のように会話はするものの、人間型ロボットではなく、器用に動くアーム付きの箱型の機械で、天井から吊り下げられている。天井にはレールがあり、プラント内で自由に移動もできる。

しかし月面にたった一人で3年間って、孤独すぎて、想像しただけで心臓がきゅーっとなる。通信衛星が故障し、地球にいる妻とはテレビ電話の会話はできないため、メッセージが録画で届くのみ。それでもあと2週間で地球に帰還できることを、楽しみにしているサム。

そうか、あと2週間で地球に戻れるならと、観ているこっちの息詰まる感覚も少し緩和されるかと思っているところへ、彼は月面作業で車の事故を起こし、気を失ってしまう。

この先はネタバレを含みます。未見の方はご注意ください。





目を覚ますと、プラント内の治療ベッドの上にいるサム。事故を覚えているか、とガーティー(コンピュータ)から尋ねられるが、覚えていないと言う。ベッドから降りると、まるで何年も歩いていないかのように足に力が入らず、フラフラする。

ルナ産業(本社)から、身体を治せ、外に出るなと通信で言われるが、強引に外へ出て月面用車で進んでいくと、採掘場の事故車を見つける。中には、同じく宇宙服を着た男がいる。

ここで「えっ・・・?」となる。今、事故車を見つけたサム、つまり治療ベッドで目覚めたサムは、事故で気を失ったサムではなかったのか?

プラント基地へ運ばれ、治療を受けて目覚める事故車内の男。手の甲の火傷痕から、最初に見ていたサムはこの男のほうだとわかる。では、先に治療室で目覚めたもう一人のサムは?

混乱する二人。自分しかいないはずの月に他にも人がいただけでなく、それが自分と同じ顔をした人間なんて。

どちらかが本物で、一方がニセ者なのか?

観ている側も事の異常さが不気味で、目が離せない展開になっていきます。

そして、やがて二人がたどり着いた答えは・・・「自分たちは二人ともクローンである」ということ。

・・・・・この衝撃。

これまでの人生や家族の記憶は、複製元となったサムの記憶を移植しただけ。

自分がただのコピー人間だと知った時、そのショックに耐えられるだろうか。

ガーティの力を借りてデータベースにアクセスした彼が見たものは、過去の何人もの「サム」が、3年の任期を終えて「地球帰還用のポッド」に身体を収める映像でした。それはまるで棺桶のような形のポッド。3日間眠っている間に地球に着く、というアナウンスとともに、フタが閉まり、煙が充満するポッド。

ポッドに乗り込む前の、その映像の「サムたち」はみんな咳き込んだり髪が抜けたりと、今の自分と同じように具合が悪くなっていることに気づくサム。

そう、「3年の任期」というのはすなわち、労働クローンとしての耐用年数であり寿命なのです。閉ざされた地下室に入ったサムがそこで見つけたのは、壁一面に収納された、たくさんの「クローンのサム」が眠る姿でした。

新たな人員を訓練するより、経験者のクローンをスペアとして交換するほうが安く上がる。

ルナ産業は、「サム自身」がクローンと気付かないようにして3年働かせ、ガタがくる3年ごとに「地球への帰還」と称してポッドに入らせて処分したあと、ストックしてある新たなクローンを目覚めさせて交換していたのでした。

地球と直接交信できないように妨害電波装置があることを見つけ、妨害電波が届かないエリアへ出て、地球の妻のもとへ直接電話をするサム。

テレビ電話に映ったのは、幼いはずの娘イヴでした。年齢をきくと15歳だと言う娘。そして、母は数年前に死んだと答えます。そして、「パパ、ママのことで電話」と父親のサムを呼ぼうとする姿が映ったところで、月面のサムは電話を切ります。

クローンの自分が帰る場所も家族も、地球上になど無かった。何代ものクローン・サムが幼い娘の映像を見せられてる間に、本当の娘はとっくに成長していた。

この衝撃はつらい。いくらクローンだろうと、サム自身は記憶を持ち、妻や娘への愛情も、感情もあるのです。それが「モノ」として扱われ、3年で死んでいく切なさ。孤独で過酷な任務を終え、ようやく愛する家族のもとへ帰るはずだった自分が、実は消耗品のクローンだったと知る絶望は、残酷すぎる。

「サム」二人が対面したことを会社が知ったら抹殺されると悟った二人は、会社からの派遣機が着く前に、あとから目覚めたほうのサムがやっと一人だけ月を脱出するのでした。そして、もう一人の自分が地球へ帰ることに未来の希望を託し、もうすぐ切れる命の中で脱出機を見送るサム。

その脱出の手立てを助けたのは、コンピュータのガーティでした。

会社の命令でクローンの世話と交換を担っているガーティですが、「君を守るのが仕事」と言い、脱出映像の消去方法を提示するのです。なんか、ルナ産業の人間よりよほど人間らしい思いやりがあるよ。(ガーティの声はケビン・スペイシーが演じてます)

エンディングでは、地球にたどりついた「クローン・サム」が、ルナ産業によって月で行われていることを告発したことがわかるシーンで終わります。それは、死んでいったたくさんの「サム」にとっても、観ている側にとってもささやかな救いとなるものでした。

脱出用機がそんな簡単に地球へ向けて飛び立てるのかとか、他にも細かいツッコミどころはあります。ですがザワザワ感とともに、同じ顔の男がいる事情が徐々に見えてくる展開が上手いです。派手さのないSFですが、サムの悲しみに打たれ、ヒューマン・ドラマとして引き込まれます。

しかし電化製品でも、最近では基本的に「修理するより新品と交換したほうが安い」という傾向が強いのでは。私自身、修理より買い替えの選択をすることが多いことから、複雑な気持ちになりました。ルナ産業はその効率性を労働力に応用したというところなのでしょう。

でも、クローンどころか生身の人間でさえ、ブラック企業によって消耗品のごとく使い倒される例が絶えない日本。(「ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない」~結局奴隷美化してどうすんの)

実際、経営者の中には、社員を使い捨ての労働力としかみなしていない人もいるのです。真面目さがアダとなって過労で心身が壊れてしまったら、元の健康を取り戻すのは容易ではありません。

あなたは会社の「消耗品」になっていませんか。

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