仕事を失ったり、老親に振り回されたり・・・子供の結婚や、独身の孤独。不惑を過ぎたって、男も女も、悩みは尽きない。そんな揺れる世代に訪れる、新しい人生。ちょっとほっこりできるラブストーリー。(2008年)
おすすめ度★★★★
あらすじ
ニューヨークのCM作曲家ハーヴェイ(ダスティン・ホフマン)は、離婚後別居していた娘(リアン・バラバン)の結婚式に出席するためロンドンに飛ぶ。だが、仕事で頭がいっぱいの彼は披露宴を辞退して帰国しようとするが、飛行機に乗り遅れてしまう。やけ酒を飲みに入った空港のバーで、ハーヴェイは偶然ケイト(エマ・トンプソン)と出会い……。
シネマトゥデイより
いやー、ダスティン・ホフマンとエマ・トンプソンの二人が主演なら間違いなさそう・・・と思ったら、やっぱり間違いなかった。
ストーリーとしてはまぁそれほど目新しくもないし、派手なシーンもない。でも、中年の孤独がわかる人、そして細かい心象描写が沁みる人にとっては、しんみり&ほっこりできる良作。
逆に、CGバリバリのアクションとか美女とかオッパイとか色男の筋肉とか出てこないんじゃ観る気しねえ!!
という方にはつまらないのでご注意ください。
ハーヴェイ(ダスティン・ホフマン)は、ニューヨーク在住のCM作曲家。最近、クライアントが若手の作曲家へシフトし始めたため、焦りを感じて苛立っている。これ、作曲に限らずクリエイティブ系の仕事をしている人にはよくある悩みなんじゃないだろうか。
年齢とともに、以前はあふれるように生まれていた作品が、絞り出さないと出てこない、または絞り出しても以前のようなクオリティのものが出来ない・・・これは本人が一番感じているし、つらいと思う。そして若手に取って替わられるというのは、自分の老いや才能の枯渇を突きつけられることでもある。
そんな崖っぷちの状況で、離婚後に離れて暮らしていた娘の結婚式に出るため、ロンドンへ向かうことになるハーヴェイ。
ところが、予約されていたホテルに行ってみたら、滞在するのは自分一人。娘たち一家はみんな一緒に別の家を借りているという。新婦の父なのに一人だけ遠ざけらてれるって、何かヤな予感・・・と思ったらやっぱり、娘は義父(母の再婚相手)とバージンロードを歩くと言うではないか。
これってショックよね。実の父でありながら、娘はもう、元妻の再婚相手とのほうが家族としての結びつきが強いということを見せつけられたわけだから。
花嫁の父ではなく”招待客の一人として” やりきれない思いで娘の結婚式に出たものの、崖っぷちの仕事のプレゼンのため披露宴には出ずに、ニューヨークへ帰ろうとします。ところが飛行機に乗り遅れてしまうハーヴェイ。
一方のケイト(エマ・トンプソン)は、ロンドンの空港でアンケート統計の仕事をしている中年の独身女性。そして病後に神経質になってしまった老母は、何かにつけてしょっちゅうケイトの携帯に電話してきて落ち着かない。
このケイトを演じるエマ・トンプソンがいい。ものすごい美人というわけでもなく、無理なエクササイズとか顔のシワ伸ばしとかしてない感じの、ごく普通の中年女性らしい顔つきと体型。
ハリウッド女優とかにありがちな妙な若作り感がなくて自然だし、あまり長くない髪を後ろで一本に結ったときの髪形もダサめ。フランス人女性みたいなコケティッシュさがないまとめ髪って、映画のヒロインではなかなか珍しい。
話変わるけど、日本のドラマとか見てて、美容院に行くような状況じゃない日常のシーンで「明らかにプロのヘアメイクが作った髪型」してる女優とか出てくると、結構シラけてしまうのです。
自力じゃ無理な髪型を見ただけで、本番前にヘアメイクさんが作り込んでる姿が浮かんできて現実に引き戻されてしまう。
で、このケイトにはそういう「リアリティ無視で撮影用にオシャレにした」感がまったくないのです。「いろいろとあきらめている中年女性」という役柄のせいでもあるのですが。
おせっかいな同僚がセッティングしたお見合いデートで、紹介相手と二人きりになったバーに、相手男性の友人グループ(みなケイトより若い男女)が偶然やってきて、同席することに。話が盛り上がる若い彼らの中で、トイレに立つケイト。そして便座に座って目頭を押さえ、不意にこみ上げた涙をこらえます。
この疎外感とか、説明できないやるせなさとか、20代の人にはピンとこないかも。泣くほどのこと?って思うかもしれないけど、泣けてくるほどのことなんだよ。
そんなケイトとハーヴェイ、この年齢まで何の接点もなかった二人が出会い、1日の中で少しずつ距離を縮めてゆきます。
ケイトに強くうながされて娘の披露宴に駆けつけたハーヴェイのスピーチは、感動的でした。離婚で娘を傷つけたけれど、心優しく自立した女性になってくれたこと。義理の息子ができて嬉しいこと。そして娘の義父となった、元妻の再婚相手への感謝を述べるハーヴェイ。
ケイトに自覚はないけど、疎外感で一杯だった彼がそんな落ち着いた気持ちでスピーチができるように変われたのは、彼女のおかげなのです。
披露宴に一緒に行ってくれ、とせがまれて共に駆けつけたケイトとハーヴェイが、急な参加のために、子供たちに混じって子供用の円卓の席に座らせられたのは笑ったけど。
その後、ハーヴェイのストレートな求愛に、喜びと戸惑いを感じるケイト。でも期待して傷つくのは怖い。そして約束の噴水広場に、現れなかったハーヴェイ。彼はすっぽかしたのではなく実は不整脈で病院に運ばれていたのですが、彼女はもちろんそんなこととは知らず、噴水広場をあとにします。
翌日、ケイトを探して空港にやって来るハーヴェイ。ケイトは退勤していて不在だったのですが、この時、例のおせっかい焼きの同僚が、ハーヴェイの背中を押す感じで応援するのがいい。
やっとケイトと再会するハーヴェイ。
でも、「あなたは私の人生に飛び込んできたの」「これは現実じゃない」「あきらめて生きるほうが楽なの」とケイトから涙ながらに告げられるのです。
これ、わかるわー。
年齢とともに、「人生が変わるような大きな変化」は、楽しみよりも怖さのほうが先に立つようになってしまうから。
一見、良い変化に見える恋愛の始まりや結婚でも、その変化が良い結果をもたらすとは限らないことを、人生経験で学んでしまっている。
そしてそのダメージから回復するのは、とても困難でエネルギーが要ることも。
歳を取って図太くなってるように見えても、傷つく時はやっぱり傷つくのです。
「百円の恋」のレビューでも書いたけど、大人になってから、生活が一変するような「新たな一歩」を踏み出すのって、すごく勇気がいる。でもそれを乗り越えないと、何も変えることはできないままなんだよね。
戸惑いと不安を自覚し、それを正直に言った上で、ハーヴェイを受け入れる決心をするケイト。彼らがこれから本当に幸せになれるのかどうかはわからない。
でも、歳を重ねた人が「新たな一歩」を恐る恐る踏み出す様子には、やっぱりきゅんとしてしまう。そして自分も、変化を受け入れて楽しめるような柔軟さをずっと持っていたいと、改めて思ったりする。
エンディングロールはハッピーでほっこりするような曲とともに、他にも頑(かたく)なだった人がまた一人、新しい出会いを受け入れるシーンが。
なので、エンディングロールを見るのもお忘れなく。
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