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「湯を沸かすほどの熱い愛」~え・・それ燃やして沸かすの!?(ネタバレあり)

夫が失踪したため、営んでいた銭湯を閉めてパン屋で働きながら1人娘を育てているおかあちゃん・双葉(宮沢りえ)。突然、末期癌と余命を宣告された彼女は、自分がやるべきことに取り組み始めるが・・・。
ストーリーのツッコミどころのひどさと役者の熱演との落差が大きすぎる作品。(2016年)
おすすめ度★★

 

あらすじ

1年前、あるじの一浩(オダギリジョー)が家を出て行って以来銭湯・幸の湯は閉まったままだったが、双葉(宮沢りえ)と安澄(杉咲花)母娘は二人で頑張ってきた。だがある日、いつも元気な双葉がパート先で急に倒れ、精密検査の結果末期ガンを告知される。気丈な彼女は残された時間を使い、生きているうちにやるべきことを着実にやり遂げようとする。

シネマトゥデイより

まず、主演の宮沢りえ。

人気絶頂期にヌード写真集「サンタフェ」をリリースした衝撃をリアルタイムで知る世代としては、「りえちゃんも高校生の子供を持つ母親役を演じるような年齢になったんだな~」としみじみ。

完璧なルックスと若さ、そして健康美を誇っていた彼女。でもアイドルの域を出ないような立ち位置にいて、将来まさか本格的に映画の道に進むとは、当時まったく想像していませんでした。

強烈なステージママや婚約解消、激ヤセ、離婚など、プライベートではあまり幸せな印象がない彼女ですが、紆余曲折を経て映画女優としての評価を築き、この作品でもしっかり「母性」を表現できる女優さんになってました。

そして主演の彼女に優るとも劣らないのが、子役の杉咲花と伊東蒼。この二人の演技が文句なしに素晴らしい。特に伊東蒼ちゃんは、「おそろしい子・・・!!(月影千草風)」レベルです。天才子役と言っていいんじゃないでしょうか。

そんな彼女らの演技に対し、ストーリーやエピソード内容は・・・かなり残念なポイントだらけで、彼女らの演技力を台無しにしちゃってます。

 

この先はネタバレを含みます。未見の方はご注意ください。




とにかく、ストーリー的に無理がある。

まず、母親との縁が薄い人が多すぎ。双葉(宮沢りえ)、安澄(杉咲花)、鮎子(伊東蒼)、通りすがりのヒッチハイカー・向井(松坂桃李)、失踪した夫探しを頼んだ探偵の娘に至るまで、みな母親から捨てられたり関係が悪かったり死別したりと、どんだけ大集合なのよ?

たとえ捨てられても母親が恋しい、という感情はどうしても涙を誘う。幼い子が、捨てられた悲しみに耐えながらも母親を嫌いになれないというシーンは泣かされる人も多いと思う。

でも、そういった泣けてくるシーンをもってきながらも、全体で見ると違和感がぬぐえないディテールのオンパレード。

安澄(杉咲花)は学校で陰湿なイジメに遭っているのですが、絵の具まみれにされたり、制服を隠されたり。「もう学校へ行きたくない」という安澄の布団をはがし、「逃げちゃダメ!立ち向かうの!」と叱責する双葉。

いや、イジメってそんな単純じゃないし。無理に学校へ向かわせることで取り返しがつかなくなるケースもあるので、こんなふうに安易にイジメ対処の見本みたいに描かれてもね・・・。

甘く解釈するなら、「間もなく死んでしまう自分は、もう守ってあげられなくなるから自力で強くなってほしい」という願いからの言動なのだろうけど。

それにしてもひどいのが、教室でのシーン。制服を隠されて体育着で登校した安澄が、教室で先生の制止もきかずに体操着を脱いでブラとパンティーだけになり、「制服返してください・・・!!」とクラスメイトに必死に訴えるシーン。

 

ああああぁああぁあ!!??

 

高校生なんて自意識と羞恥心の塊の年代でしょ。なんで男子もいるクラスの中でわざわざ自分から下着姿になるのよ?

・・・監督が杉咲花の下着姿を見たかっただけちゃうんかい!!

イジメられてる側がさらに自虐的なことしたって、イジメてる相手になんか響かないよ。もしやるんだったら逆のことしなきゃ。いつもやられるがままだった弱い相手が、振り切れた時が怖いんだよ。

自分で恥ずかしい姿さらすんじゃなくて、あの場で必要なのは、椅子を振り上げて窓ガラス叩き割るくらい過激にキレること。弱いと思っていた相手が見せる狂気って怖いからね。

 安澄の父で、ダメ男の(オダギリ・ジョー)は、双葉(宮沢りえ)と娘の安澄(杉咲花)を置いて突然失踪。それは、以前関係を持った女と再会してその女と暮らし始めたため。しかもその女から逃げられ、「アナタの子」と言われた女の子・鮎子を押し付けられて二人暮らしになっているという情けなさ。 

夫が消えて1年後、双葉は自分の余命がわずかと知り、探偵(駿河太郎)に頼んで夫を探し出してもらうのですが、探偵がその調査結果を喫茶店で渡すときに同席してるのが、探偵の幼い我が子。

探偵が調査結果の報告するのに、子連れでクライアントに会いに来る?普通。いくら父子家庭だからって、無理があるでしょ。連れてきたのは幼い女の子で、その子にも双葉は母親のような優しさを見せます。

探偵は段々、仕事抜きで身内のように双葉のためにいろいろ協力するように(最後のとんでもない思いつきにも協力してます)。

そして娘の安澄(杉咲花)。

双葉と強い絆を感じる娘ですが、後半、この子が双葉の実の子ではないことがわかります。安澄は、父の最初の結婚相手が産んだ子供で、つまり双葉は育ての母だったのですね。(その子を双葉に押し付けて失踪するクズ男っぷりよ)

安澄を産んだ実の母は聴覚障害者で、我が子の声が聴こえないことが耐えられず手放した、みたいな理由なんだけど、それもどうなの?

子供の声が聴こえないのは産む前からわかってることだし。しかも、聴覚に障害があっても飲食店で生き生きと接客して働いてますやん。子供を手放す理由が不自然すぎ。

双葉は、自分が死ぬ前に、安澄に実の母と会わせ、事実を話そうと車で小旅行に出ます。

・・・てオイ、病状がかなり進んで危険なのに、子供二人(安澄と鮎子)を乗せて長距離運転て、自殺行為やろ。

案の定、旅先で倒れる双葉。

運転中に意識失って事故ったら子供まで巻き添えで死ぬかもしれないのに、無謀にも程がある。

身体が限界になり、緩和ケアの病院に入院する双葉。

そして、新婚旅行はエジプトに行きたいと言われた約束を叶えてないことで、何とかしようとするダメ夫・一浩(オダギリ・ジョー)。

その方法がもう何というか、熱いというよりむしろ寒すぎる。家族と知り合いを集めて、病院の外で人間ピラミッドを組み、窓から双葉に見てもらう、というもの。ナンダコレ。

こんなんで「安心してくれ!!」て言われても・・・よけい不安になるわ!!

そして病状が進行し、もう反応もないまま目を見開いてベッドに寝ている姿は、りえちゃん自身が昔、激ヤセした時から回復しきってないイメージが強くて、骨張って見えて痛々しかった。(末期表現のため、さらに痩せて役作りしたらしいですが)

 

そしてシーンは葬式へ。

それは銭湯を会場にした、銭湯葬。

親族だけでお別れをする、と参列客が出されたあと、なぜか例の探偵が運転する霊柩車で出棺に出発する家族たち。

着いた場所は川原。みんなでおにぎりとか食べて、まるでなごやかなピクニックのよう。

一浩(オダギリ・ジョー)が、「こんなことに巻き込んじゃって悪いね」みたいなことを探偵に言うのですが、何のこと???

銭湯に戻る一家。

「こんなこと」ってのはつまり、双葉の遺体を、銭湯の釜で焼くことだったのです!!

 

ええぇぇええーーー!!

と思ったけど、ここまではまだマシだった。なぜなら、世間の常識とは違っても、自分達らしい方法で弔いたいというのは、アリだと思ったから。

斎場で火葬にするのではなく、自分達の手で荼毘(だび)に付すのを選ぶというのは、まだ理解できた。(実際にちゃんと焼けるのかどうかのリアリティは置いとくとして)

 

と・こ・ろ・が!!!

 

その火で湧いた風呂に、みんなで気持ちよさそうに入っちゃうんですよ!!!!

 

それって・・・

 

 

荼毘(だび)じゃねーよ。
薪(たきぎ)だよ!!!

 

 

アカン・・・理解できん・・・

風呂上がりにみんなさっぱりしたところで、釜のぞいて長いトングか何かで骨拾うの?

「あれ~あんまよく焼けてないわ~」とか言ってるのを想像すると、完全ホラー・・・。

 

他にも、鮎子が元のアパートのドアの前で母親が帰ってくるのを待ってお漏らししてしまったパンツを、双葉が脱がせてそのまま放置するとか、安澄がそれをつまんでドアノブに掛けて「鮎子ここにあり」とか言って置いてくるとか。

女なら、というか双葉のように優しくて常識的な人ならなおさら、お漏らしパンツをアパートの廊下に放置しないって。

これ、男性の監督で、脚本も監督が書いてるんですよね?

母性、重病、死、イジメ、障害等、すごく重いテーマを盛り込んでいるのに、「女性心理なんか何もわかってねーだろ!!」と言いたくなるシーンがいくつもある。(もう勝負ブラが必要な年頃よ、という意味で双葉が安澄に買ってあげた青いブラが、例の下着姿事件の時に使われたりとか)

母子愛が最重要テーマなのに、女性の視点が欠けてたら致命的なんじゃ・・・。

他にもヒッチハイカーの松坂桃李の会話の内容とか、彼への双葉の唐突なハグとか、どうにも書ききれないほどの違和感がてんこ盛り作品です。

それでも、りえちゃんと子役二人の演技が素晴らしいので、一応おすすめ度は2つで。

今さら教訓:
火葬は斎場で

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